Research (Molecular robots, DNA computers, DNA nanotechnology)

Other categories: [Soft matter, Active matter] [Artificial cell models, Microreactors]

情報分子DNAの物理化学から分子コンピュータ・分子ロボット・分子による知性へ

生命システムが情報処理をする基盤は分子反応です.したがって,分子反応によって情報処理システムが創れれば,生命の情報処理や自律性の秘密が分かるかもしれません.また,生物は生体分子の持つ物理化学的性質のほんの一部を利用しているに過ぎず,潜在的には,生体分子によるシステムには,より高度であったり,より科学的に興味深い仕組が隠れています.本研究では,生体内で情報保持・伝達に関与する分子であるDNA/RNAや機能発現に関与する分子であるタンパク質を利用して,生命システムで使われている物理化学的性質にとらわれず広い視野で分子を利用し,特に,自律的な情報処理の仕組を創ったり,そのシステムを解析したりしています.将来的には物質に知性を与えることを目指しています.本研究の成果は,新規な生体分子の物理化学的性質の解明,バイオインフォマティクスを含む情報科学,および,分子コンピュータ・分子ロボット構築に貢献することができます.

(1) DNAゲル/DNAオリガミを利用した分子ナノテクノロジー・ソフトマター物理学

■ 人工細胞を頑強にする DNA 人工細胞骨格:我々の体を構成する細胞は,細胞骨格と呼ばれるネットワーク構造により非常に安定になっています.リポソームは薬の輸送用カプセルや化粧品の材料として使われてきましたが,細胞骨格のような構造が無いため,わずかな刺激により壊れてしまう問題がありました.本研究では,DNAナノテクノロジーによってDNAゲルでできた人工的な細胞骨格を作製し,リポソームの裏打ち構造として利用しました.この人工細胞骨格を持つリポソームは,従来の骨格を持たないリポソームが壊れてしまうような刺激に対しても崩壊せず,その形を維持しました.リポソームの耐久性を高めることは,薬用カプセルや化粧品などへ応用する上での最も大きな課題でしたが,今回の成果によりこの問題が克服される可能性があります.

  • Chikako Kurokawa, Kei Fujiwara, Masamune Morita, Ibuki Kawamata, Yui Kawagishi, Atsushi Sakai, Yoshihiro Murayama, Shin-ichiro M. Nomura, Satoshi Murata, *Masahiro Takinoue, *Miho Yanagisawa, “DNA cytoskeleton for stabilizing artificial cells”, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (PNAS), vol.114, no.28, pp.7228-7233, (2017). doi: 10.1073/pnas.1702208114. link

■ DNAオリガミは,長鎖の一本鎖DNAを多数の短鎖の一本鎖DNAのハイブリダイゼーションによって,クリップ留めするようにフォールドさせて,約 100 nm × 100 nm のサイズの様々なDNAナノ構造を自由に構築する技術です.大腸菌に感染するウィルス M13mp 18 phage の遺伝子である 約 7.2 kbases の一本鎖DNAがよく利用されます.この研究では,DNAオリガミを利用した分子ナノテクノロジーや,界面のソフトマター物理学の研究を行っています.
この技術を利用し,DNAオリガミを膜とする人工細胞膜の構築を行っています.膜がDNAナノ構造でできているので,DNAナノ構造の形状や機能をデザインするだけで,膜カプセル自体の性質をコントロールすることができるため,機能性カプセルの開発や細胞型の分子ロボットの構築に利用できると考えています.

  • Daisuke Ishikawa, Yuki Suzuki, Chikako Kurokawa, Masayuki Ohara, Misato Tsuchiya, Masamune Morita, Miho Yanagisawa, Masayuki Endo, Ryuji Kawano, *Masahiro Takinoue, “DNA Origami Nanoplate-Based Emulsion with Designed Nanopore Function”, ChemRxiv, Preprint. DOI: 10.26434/chemrxiv.7046495.v1

■ DNAゲルは,短鎖DNAのハイブリダイゼーションにより架橋されたゲルです.本研究では,ミクロなDNAゲルの物理化学的な性質について明らかにしている.

DNAgel

(2) 自律型 DNA/RNA分子コンピュータによる論理演算

■ DNA/RNAの生化学反応を利用した論理演算回路(自律的DNA情報処理システム)を構築し,生体分子反応ネットワークで計算ができることを示しました.通常,生体内では,DNA情報から転写されたRNAの情報を読み取り,タンパク質を作って情報処理等の機能を発現していますが,このシステムでは,DNA情報から転写されたRNAで直接的に情報処理のための機能制御(分子反応のON/OFFスイッチング)を実現します.RNAが一時的な情報を持っており,情報ネットワーク上での通信を担います.ハイブリダイゼーション反応と酵素反応のキネティックな方程式をたてて,数値シミュレーションしたところ,実験結果を予測できることが分かりました.将来的には,生体内(in vivo)で動くナノサイズ情報処理マシンへ応用が可能だと考えられます.

Reverse-transcription-and-TRanscription-based Autonomous Computing System (RTRACS)

  • M. Takinoue, D. Kiga, K.-i. Shohda, A. Suyama, “Experiments and simulation models of a basic computation element of an autonomous molecular computing system”, Phys. Rev. E, 78, 041921 (2008).
    (highlighted in Vir. J. Nano. Sci. Tech., 18, issue 19 (2008))
    (highlighted in Vir. J. Bio. Phys. Res., 16, issue 9 (2008))

(3) 自律型DNA/RNA分子コンピュータによる振動回路(オシレータ)

■ DNA/RNAの生化学反応を利用した論理演算回路(自律的DNA情報処理システム)を応用して,非線形振動子(RNAオシレータ)を設計しました.反応回路内では,あるRNA(X)が生成すると別のRNA(Z)の生成を活性化し,逆に,RNA(Z)が生成するとRNA(X)の生成を抑制するという関係になっています.これは,非線形科学で有名な Activator-Inhibitor System になっており,リミットサイクル振動を発生することが知られています.数理モデルとシミュレーションによる研究ですが,実際に実験でも実現できると考えられます.将来的には,自律的に駆動するナノモーターや生体分子反応システムの同期をとるためのクロックとして利用可能が可能で,ナノテクノロジー・バイオテクノロジーに貢献します.

RNA Oscillator

  • M. Takinoue, D. Kiga, K.-i. Shohda, A. Suyama, “RNA oscillator: limit cycle oscillations based on artificial biochemical reactions”, New Generat. Comput., 27, 107-127 (2009).

(4) ヘアピン型DNA分子の平衡論的・速度論的な反応制御によるDNA分子メモリ

■ ヘアピン型DNA分子の二次構造形成の安定性とハイブリダイゼーション反応速度に関する基礎的な知見を利用して,分子による双安定系(分子メモリ)を構築しました.生体内のDNAは塩基配列自体で遺伝情報を記憶する不揮発性の read-only メモリだが,このシステムではDNAの分子構造の形態変化によって情報を記憶する不揮発性の rewritable メモリを実現できました.生体内での分子の利用方法にとらわれず,物質の性質として可能であることを示しました.これは,物理化学的には,最安定状態へのアニーリングによる書き込みと,準安定状態へのキネティックトラップによる消去で成り立っています.

  • M. Takinoue, A. Suyama, “Hairpin-DNA Memory Using Molecular Addressing”, Small, 2, 1244-1247 (2006).

■ ヘアピン型DNA分子の二次構造形成の熱力学的安定性とハイブリダイゼーション反応速度論に関する基礎物性の研究をしました.これにより,安定な二次構造を形成している場合はハイブリダイゼーションの反応速度が極端に遅くなることが分かりました.しかし,一度高温状態にしてゆっくり冷却する操作(アニーリング操作と呼ばれる)をすると,最安定状態にすぐに到達できます.これは,有限時間では,ある温度でDNAの構造が二状態とり得ることを示しています(双安定性).この知見は分子でメモリを構築するナノテクノロジーのほか,遺伝子解析の際のPCRのプライマーDNAの塩基設計設計などバイオインフォマティクス分野にも役に立ちます.

Takinoue_CBIJ2004

  • M. Takinoue, A. Suyama, “Molecular reactions for a molecular memory based on hairpin DNA”, Chem-Bio Info. J., 4, 93-100 (2004).
  • T. Kitajima, M. Takinoue, K.-i. Shohda, A. Suyama, “Design of Code Words for DNA Computers and Nanostructures with Consideration of Hybridization Kinetics”, Lect. Notes Comput. Sc., 4848, 119-129 (2008).

Other categories:
[Soft matter, Active matter]
[Artificial cell models, Microreactors]